一人で子どもを育てていくのが難しくなったとき、「子どもと離れて、施設に預けるしかないのかもしれない」
——そう思ってしまう方に、現場でたびたび出会うことがありました。
でも、それは誤解です。児童福祉施設の中で唯一、母と子が一緒に生活できる施設があります。
それが「母子生活支援施設」です。
この記事では、あまり知られていないこの施設について、福祉の現場で働く私たち夫婦の実感を交えてまとめてみました。
母と子が、一緒に生活できる施設です
母子生活支援施設は、児童福祉法第38条にもとづく施設で、配偶者のいない女性(に準ずる事情にある女性)と、その子どもが一緒に入所し、生活しながら自立を支援してもらえる場所です。
「施設に入る」と聞くと、子どもと引き離されるイメージを持つ方が多いかもしれません。
でも、この施設は母子分離ではなく、母子で一緒に暮らしながら、生活を立て直していく場所です。窓口は、お住まいの福祉事務所(≒市役所の福祉の窓口)になります。
費用は世帯の収入に応じた一部負担金がかかりますが、生活保護世帯や住民税非課税世帯は利用料がかからないことが多いです(水道光熱費などの実費は別途かかります)。
入所のきっかけは、一つではありません
国の調査では、入所理由として「配偶者からの暴力」が半数程度を占めるというデータがあります。ただ、これは統計上の理由であって、すべてがそうというわけではありません。実際には、経済的な困難や住まいの問題、そして複合的な事情を経て入所に至るケースが多いです。
現場で見てきた実感としては、妊娠・出産をした後の比較的早い段階で、一人で育てていくにはハードルがある——頼れる人が身近にいない、仕事が不安定、精神的に不安定な状態が続いている、産前産後のホルモンバランスの影響が大きい——そうした事情が重なって、入所につながることが多い印象です。
配偶者からの暴力を理由とする方もいますが、それだけが入り口ではありません。
色々な事情で、一人で子育てを続けるのが難しくなった方のための場所だと考えてもらえたらと思います。
「ルールだらけで自由がない」というイメージは、実態と少し違います
母子生活支援施設について、こんなイメージを持つ方は多いのではないでしょうか。
- ルールが厳しくて、生活が制限される
- 自由がなく、何かと厳しいことを言われそう
- 他の利用者との交流が面倒くさそう
たしかにルールが全くないわけではありません。ただ、以前と比べると、近年はかなり柔軟に対応している施設が増えてきた印象があります。たとえばスマートフォンの利用なども、ひと昔前は制限されているイメージがありましたが、今はそれぞれの状況に応じて柔軟に対応されるようになってきています。
具体的には、こんなことをしてくれます(一例)
① 一人ひとりに寄り添った支援をしてくれます
画一的な対応ではなく、その方の状況に合わせて寄り添ってもらえます。
② いつでも相談できる支援者が施設内にいます
支援員が施設の中にいるので、困ったときにすぐ相談できる環境があります。
一人で抱え込まなくていい、というのはとても大きな安心材料だと思います。
③ 子どもへの支援もセットで行われます
母親への支援だけでなく、子どもの生活や気持ちのケアも含めて、家族単位で支援してもらえます。
④ 自立に向けて、一緒に歩んでくれます
仕事や住まいを見つけて、自立した生活に移っていくまでの過程を、時間をかけて伴走してもらえます。
ひとつ誤解なきよう記しておきますと、こうした支援の中身や雰囲気には施設ごとの差があります。ここに挙げたのは「だいたいこんな感じ」という目安と受け取ってください。
「あきらめて、あきらめない」という言葉が、忘れられません
以前、ある母子生活支援施設の施設長さんが、こんな言葉を話してくれたことがあります。
「あきらめて、あきらめない」
すぐに状況が変わることは、あきらめる。でも、いつか変わることは、あきらめない——そういう意味だと聞きました。厳しい現実の中で、それでも希望を見出そうとする、現場ならではの言葉だと感じています。
母子生活支援施設は、すぐに全てが解決する魔法の場所ではありません。
それでも、一緒に暮らしながら、少しずつ生活を立て直していける場所です。焦らなくていい、というのも、この施設が持っている価値のひとつだと思います。
まとめ——一人で抱え込まなくていい選択肢があります
「子どもと離れるしかない」と思い詰める前に、母と子が一緒に生活しながら立て直せる場所がある、ということを知ってもらえたらと思います。
まずは、お住まいの福祉事務所に相談してみてください。以前の記事で紹介した子ども家庭支援センターからも、つながることができます。
▶ 妊娠・出産、寝られない、つらい、誰に相談すればいい?〜親のことも子のことも相談できる子ども家庭支援センター
ひとり親を支える制度全般については、こちらの記事にまとめています。
▶ 離婚したら、生活はどうなる?〜ひとり親を支える制度は思っているよりたくさんあります
▶ 児童養護施設って、どんなところ?〜16年働いた私が伝えたい、そこにある「ふつうの生活」
「どこに相談すればいいか分からない」という段階なら、質問に答えていくだけで相談先の候補がわかる無料ツールも作っています。よかったらどうぞ。
▶ 「どこに相談すればいいかわからない」を解決したくてツールを作りました
制度は自治体・施設によって運用が異なり、改定されることもあります。注意深くまとめていますが、誤りがあれば都度修正します。実際の利用にあたっては、お住まいの福祉事務所など関係機関にご確認いただけますと安心です。
※この記事は、夫婦の現場経験をもとに書いています。
ゆるきりん🦒
