「病歴・就労状況等申立書」を前にして、多くの人が最初につまずくのって
「何を書けばいいかわからない」じゃないんですよね。
「あの頃のことをどう言葉にすればいいかわからない」
「どう整理すればいいかわからない」。そっちで詰まることの方が、ずっと多い。
発症からの経緯を時系列で整理する。症状がひどかった時期の生活を言葉にする。
それは当事者にとって単なる「書類作成」じゃなくて、しんどかった記憶を掘り起こす作業でもあります。
支援者がいる場合も、当事者・家族が一人で取り組む場合も、最初に知っておいてほしいのはここです。
申立書の出来を左右するのは、文章力じゃなくてヒアリングの質ではないかと思っています。
支援者がやりがちなNG:「答え」に向かって聴くと、本当のことが出てこない
支援者として申立書に関わるとき、経験を積んだ人ほど陥りやすい落とし穴があります。
それが、見立てが先行してしまうことです。
「こう聞けば必要な情報が早く取れる」という見通しを持って聴くと、無意識に答えを誘導する方向に質問が向いてしまいます。
効率的ではあるんですけど、その雰囲気って当事者に伝わるんですよね。
「早く終わらせたい」「うまく書かせなきゃ」という焦りも同じです。態度に出してなくても、口調や間の取り方ににじみ出てくる。
当事者は敏感です。「正しいことを答えなきゃ」「この人を困らせたくない」と感じた瞬間、本当に大事な言葉は出てきづらくなります。
話してもらうために、まず「時間と距離」を整える
じゃあどうするか。
答えはシンプルで、繰り返し会うことです。
警戒心が少しずつ解けていく人がいます。何度会っても解けない人もいます。
ただ、どちらにせよ、支援者にできることって「オープンな姿勢を持ち続けること」と「相手のペースに委ねること」だと思っています。
距離感も人によって違うんですよね。近い方がとっつきやすい人もいれば、遠巻きからゆっくり近づいてきた方がいい人もいる。相手のスタンスに委ねながら、こちらは一定のスタンスを保つ。
そして、話してくれそうだと感じる瞬間があります。拒否的じゃなくなってきた。よく話してくれるようになってきた。
「支援者とサポートを受ける人」という関係から、「人と人」に近づいてきた感覚。それが来たら、そこで初めてヒアリングの本番が始まると思っています。
傾聴の3つの技術:繰り返し・要約・聴く姿勢
実際の聴き方としては、基本的な傾聴の技術がそのまま使えます。
① バックトラック(繰り返し・おうむ返し)
相手が話してくれた言葉を、そのままか少し言い換えて返す。「〇〇だったんですね」「〇〇ということですか」。評価も解釈も加えない。それだけで「ちゃんと聴いてもらえてる」という安心感が生まれます。
② サマリー(要約)
ある程度話してもらったところで、「つまりこういうことですか」と整理して返す。当事者自身が「自分がどんなことを話したか」を確認できるので、記憶の整理にもなります。
③ 聴く姿勢そのもの
技術より先にあるのは姿勢です。「時間ですね」とも言わない、急かさない、笑顔でいる。「いつでも連絡ください」と伝え続ける。言葉より先に、その態度が信頼をつくります。
申立書に必要な情報を自然に引き出すフレーズ例
申立書の記載項目ごとに、使いやすいフレーズの例を紹介します。
発症時期・初診のこと
- 「体や気持ちがおかしいな、と最初に感じたのはどんなときでしたか?」
- 「最初に病院に行ったのは、何かきっかけがありましたか?」
症状の程度・日常生活への影響
- 「一番しんどかった頃、1日どんなふうに過ごしていましたか?」
- 「朝、起きられていましたか?」「ごはんは食べられていましたか?」
- 「外に出ることはできていましたか?」
就労・休職のこと
- 「仕事はされていましたか?休んだり、辞めたりしたことはありましたか?」
- 「職場でどんなことが難しかったですか?」
治療の経緯
- 「病院は続けて通えていましたか?」
- 「薬が変わったり、合わなかったりしたことはありましたか?」
「書けそうかどうか」より、「話してくれそうかどうか」を見ながら進めるのが、現場での感覚に近いと思っています。
当事者・家族が「準備しておくと楽になる」3つのこと
① 通院歴のメモ
病院名・受診期間だけでも書いておくと、時系列を整理するときの骨格になります。
診察券や薬の袋が残っていれば、それも参考になります。
通院しているドクターに聞くのも良いと思います。記録をある程度、残しておいてくれていると思います。
② 「記憶に残っているエピソード」を1つ思い出しておく
「あの頃、〇〇ができなかった」という具体的な場面をひとつでも思い出しておくと、そこから話が広がりやすくなります。
ただ、心理的に負担が大きい作業になる場合もあるので慎重に行う方が良いと思います。
③ 一緒に来てくれる人を連れてくる
家族や支援者が同席できると、「本人が覚えていない当時の様子」を補完してもらえます。
申立書に家族・支援者の視点を入れることは、審査において有効です。
「自分でやれた」と思ってもらうことが、支援者の仕事だと思っている
以前、児童福祉施設で働いていたとき、子どもがお皿洗いをしたがる場面がありました。
二度手間になる。時間もかかる。一瞬、せかしたくなる気持ちが出てきました。
でも思い直したんです。「何かをやりたい」って気持ちは、自発的でそれ以上ないくらい素敵なことだ、と。だから「やってくれてありがとう」と伝えました。
申立書のヒアリングも同じだと思っています。支援者が「うまく引き出してあげた」のではなく、当事者が「自分で話せた」と感じることが大事なんです。
その考え方は、国語教育者・大村はまさんの著書『灯し続けることば』(小学館)を読んで、より強くなりました。本の中にこんな言葉があります。
「『おかげ』と思っているうちは、本当にその子の力になっているのではないのです。生徒が、自分の力でがんばってできたという自信から、生きる力をつけるように仕向けていくことが、教師の仕事なのだと思います。」
――大村はま『灯し続けることば』(小学館)
教師の言葉ですが、支援者にそのまま重なります。これが、支援者の究極の仕事だと私は思っています。
支援者は「人と人の関係」に近づきながら、一線を越えない
ヒアリングがうまくいくのは、技術だけじゃないと感じています。「人と人の関係に近い何か」が生まれているときに、話が動くんですよね。
支援者とサポートを受ける人という関係を超えて、一人の人間として向き合えている感覚。それが話しやすさをつくる。
でも、完全にそうはなれない。支援者である自覚と客観性は手放さない。感情も動かしながら、言動はコントロールする。それを不自然に見せない。
ちょっと俳優みたいなところもある、とは思っています。
そのバランスが崩れると、客観性や中立性が欠けて支援に支障が出ることもあると思います。
人と人との触れ合いでありつつ、あくまで支援者でもある。難しい所ですが。。。
最後に:あるケースの話
申立書の支援をした方が、無事に障害年金を受給しました。
さかのぼっての支給は認められませんでしたが、その後ずっと支給が続いています。
今、その年金は娘さんの学費に充てられています。
申立書は書類でしかないですが、その先に、誰かの生活があることを学びました。
障害年金の申請手続きや必要書類については、日本年金機構の公式サイトをご確認ください。
参考:日本年金機構|障害のある方
この記事は、19年間の児童福祉・社会福祉の現場経験をもとに書いています。
ゆるきりん🦒
この記事は障害年金シリーズの第2部です。
▶ 【第1部】障害年金「病歴・就労状況等申立書」損しない書き方


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